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現代の住宅 藤本壮介 2008〜2011年

No.7 / 49

箱のなかの箱、床のつらなり

2025年の大阪・関西万博で、会場を一周する木造の大屋根リングを手がけた建築家、藤本壮介。その名が広く知られるより前、2000年代の終わりに、藤本は小さな住宅をいくつか完成させている。ここでは大分、東京、熊本に建つ3つの作品を取り上げ、それぞれが「家の内と外」「部屋と家具」「床と壁」という、住宅のごく当たり前の区別をどう組み替えたかを見ていく。

1House N 3重の入れ子

大分市の住宅街に2008年に完成したHouse Nは、大きさの異なる3つの箱を入れ子に重ねた住宅である。外側の2つは鉄筋コンクリート造、いちばん内側の箱は木造で、壁の厚さは外から順に薄くなっていく。延床面積は85.51平方メートル1。

いちばん外側の箱は家全体を覆う殻であり、その内側と2番目の箱とのあいだは庭になっている。どの箱の壁にも大きな開口が穿たれているため、外から見ると穴だらけで、プライバシーがないように見える。ところが内に入ると、開口が幾重にも重なることで外からの視線は切られている。開口の縦横の比はすべて黄金比に揃えられており、視線が壁よりも開口のほうへ向かうように意図されたという1。

House Nの室内。畳の床から見上げると、白い壁に開いた大きな開口の向こうに、さらに外側の箱の開口と隣家の瓦屋根が見える
House Nの室内。手前の開口の先に外側の箱の開口が重なり、その向こうに空と隣家がのぞく。左手の床には紙の照明が置かれている。 写真:japanese_craft_construction/「House N 2 (3406882834).jpg」(Wikimedia Commons)/CC BY 2.0

完成から9年後の取材で、住まい手は「いい空間があれば、物欲が消える」と語っている1。庭に植えた木は育ち、季節の移ろいは箱の開口を通して室内に届く。

2House NA 家具と建築のあいだ

2011年に東京の住宅街に完成したHouse NAは、外周のほとんどがガラスでできている。構造は、一辺55ミリメートルの無垢の角鋼を柱とする鉄骨のラーメン構造で、柱の細さは5センチメートルほどにすぎない2。

内部には階と呼べるものがない。小さな床が少しずつ高さを変えながら立体的に連なり、ある床は隣の床にとって机にも棚にもなる。藤本はこの住宅を、家具と建築のあいだにあるものと説明している2。

House NAの外観。細い白い鉄骨の枠に、高さの違う小さな床とガラスの箱が積み重なり、床の端に鉢植えが置かれている
House NAの外観。白く細い鉄骨の枠のなかに、高さの違う床が重なっていく。 写真:Nicolás Boullosa/「House NA.jpg」(Wikimedia Commons)/CC BY 2.0(車両のナンバーが写らないよう一部を切り取った)

3Final Wooden House 床であり、椅子であり、天井である

熊本県芦北町の球泉洞休暇村に、2008年7月に完成した宿泊用の小屋である。熊本県産の杉を350ミリメートル角の角材とし、それを井桁のように積み上げてつくられている。本体の面積は15.13平方メートル、ロフトが7.50平方メートル3。

角材は350ミリメートルずつ段差をつけて積まれ、その段差がそのまま床になり、腰掛けになり、頭上では天井になる。藤本自身、床だと思っていたところが、別の場所から見ると椅子であり、天井であり、壁であると述べている3。

Final Wooden Houseの外観。杉の太い角材が互い違いに積まれた立方体で、ところどころに開口がある
Final Wooden Houseの外観。角材の積み方の違いが、そのまま窓と出入口になる。 写真:Kenta Mabuchi/「Final Wooden House 2008.jpg」(Wikimedia Commons)/CC BY-SA 2.0(一部を切り取った。改変後もCC BY-SA 2.0)

4図面を見る

3作とも、図面は建築家と掲載誌の著作物であるため、本稿には転載していない。House NとFinal Wooden Houseは『新建築』2008年9月号に発表されており、図面は下記の掲載元で見ることができる4。

5今の家づくりに持ち帰る

3作はいずれも施主と建築家の強い合意のもとで成り立った作品であり、そのまま一般の住宅に置き換えられるものではない。ただ、そこに通底する考え方のいくつかは、ふつうの木造住宅の設計にも持ち込むことができる。

一つは、上下の階を一つの空気でつなぐことである。住宅プランナーの自動設計にある「デザイナーズ」の型は、片流れの屋根の下で居間の上を吹抜けとし、階段を居間のなかに置く。玄関は土間とし、廊下を設けずに居間へ入る。下の図は、150平方メートルの敷地と、大人2人・子ども2人の家族を条件にこの型で描いた叩き台である。

デザイナーズの叩き台、1階。LDK・階段(リビング)・玄関(土間)・洗面・浴室・トイレ・収納
1階。階段は居間のなかに置く。
デザイナーズの叩き台、2階。吹抜け・主寝室・個室1・個室2・階段・ホール
2階。白く抜けているところが吹抜け。

イラスト:住宅プランナー。住宅プランナーの自動設計が描いた叩き台で、藤本壮介の作品の図面を写したものではない。

もう一つは、室内のしつらえを控えめに保つことである。House Nの写真に写る室内は、白い壁と畳、ロールスクリーン、床に置かれた紙の照明だけで構成されている。開口と、その向こうの庭が主役であれば、家具や照明は数を絞り、低く置くほうが空間の広がりが損なわれない。照明を床に置く場合は、家を建てる段階でコンセントの位置を決めておく必要がある(「和紙の光」参照)。

この型で、自分の敷地に描く

住所と家族の人数を入れると、この型で叩き台を描き、建つ見込みと金額の幅を示します。

「デザイナーズ」で設計する

無料。叩き台であり、最終的な可否と金額は住宅会社が決めます。

注

  1. 「作品『House N』」TOTO通信 2017年春号。所在、構造、延床面積、入れ子の構成、開口の比、住まい手の言葉。https://jp.toto.com/tsushin/2017_spring/case01.htm
  2. 「007:house NA/藤本壮介(2011)」kenchikutantei(note)、および「藤本壮介による新しい住宅『House NA』の動画」architecturephoto.net。構造と柱の寸法、床の構成、家具と建築のあいだ。https://note.com/atsea0713/n/n8d754a0cf68b https://architecturephoto.net/26788/
  3. 「球泉洞休暇村バンガロー『final wooden house』」熊本県。所在、完成年月、材料、面積、設計者の言葉。https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/115/4353.html
  4. 図面の掲載元。House N:新建築 2008年9月号 https://data.shinkenchiku.online/en/projects/articles/SK_2008_09_106-0 Final Wooden House(くまもとアートポリス「次世代モクバン」):新建築 2008年9月号 https://japan-architect.co.jp/project/くまもとアートポリス「次世代モクバン」/

2026年9月27日確認

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